遺言書のイメージってどんなものでしょうか。
「遺言書って作る必要ある?」
「お金持ちの人が作るものでしょ?」
「死ぬ時のことを考えるなんて、縁起が悪いし気が滅入る…」
こんなふうに感じている方もいらっしゃるかと思います。遺言書がどのようなもので、遺言書があると助かるのはどんな場合か、ご紹介したいと思います。
遺言書ってどんなもの?
遺言書とは、「自分の死後、自分の財産を、誰にどのように分配するかの意思表示を記した法的効力のある書類」です。
法的な書類ですので、遺言書の形式には法で定められた要件を満たしている必要があります。
そして、有効な遺言書がある場合は原則、遺言書の内容のとおりに遺産を分配することになります。
遺言書は遺書ではなく、自分の財産の行く末を、自分で決めておくためのものです。
遺言書があると、どんな利点がある?
遺言書の利点のまずひとつ目は、「自分の財産の行く末を自分で決めることができる」ことです。
当たり前のことのようですが、事業などをしていて後継者がいる場合や、子供のいないご夫婦、内縁の妻がいるなどの場合、こちらは非常に重要な点となります。特定の人に、必要な財産をスムーズに受け渡すことが可能になります。
つぎに、ほとんどの方に当てはまる利点は、「相続手続きがスムーズに進む」点が挙げられます。
通常、遺言書なしで相続手続きを行うには、遺産の名義変更などの前に、
①相続人の調査(戸籍の収集)
②財産調査(預金や有価証券、不動産、借金の有無などの調査)
③遺産分割協議(相続人全員で、誰がどの遺産をもらうかの話し合い)
④遺産分割協議書の作成(相続人全員の押印と印鑑証明書が必要)
を行う必要があります。
「①相続人の調査」や「②財産調査」は、亡くなった方の自宅で書類を探し、あちこちに出向いたり、問い合わせ、書類を集め…かなりの負担となります。
さらに大変なのが「③遺産分割協議」と「④遺産分割協議書の作成」です。
相続人全員が集まって遺産の分配について話し合うことは、負担に感じる方も多いでしょう。
すぐに話がまとまればよいですが、相続人の間で意見が割れることはよくあることです。
また、相続人の中に認知症の人がいると、遺産分割協議を行うために成年後見人が必要になることも。
話し合いがまとまらなければ、相続手続きは進みません。
遺産はすべて相続人全員の「共有状態」となり、遺産分割調停や審判で手続きがなかなか進まず、相続税や登記の手続き、事業の継承などに影響を及ぼすこともあります。
遺産分割協議書の作成も、高齢の方や多忙な方には作成が難しいこともあります。相続人全員の押印や印鑑証明書も必要になるため、骨の折れる作業です。
ですが、有効な遺言書があれば、相続手続きがストップしてしまうことはありません。
財産目録や相続人関係図がついていれば遺産の内容や相続人は一目瞭然。誰にどのように分けるか決まっているのですから、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)は必要なくなります。
遺されたご家族の、相続手続きの負担の多くを取り払うことができるのです。
遺言書を作成した方がよいのはどんな人?
以上のことから、「相続人同士でもめる可能性をなくしたい」「スムーズに相続手続きができるようにしておきたい」という方には、遺言書の作成をおすすめします。
具体的には、
・相続人同士の仲がよくない。
・特定の相続人に生前贈与を行っていたり、介護を担っていた相続人がおり、遺産相続の際にもめそう。
・内縁の妻に、財産を遺したい。
・認知症の相続人がいるため、遺産分割協議をしないで済むようにしておきたい。
・事業を営んでおり、後継者にスムーズに財産を渡せるようにしたい。
・子供がいない夫婦で、全財産を配偶者に渡したい。など。
遺言書は、大切な人への最後のメッセージとなります。遺言書には、付言というメッセージを入れることも可能です。相続争いが起きないよう、想いを伝えるための有効な手段となります。
遺言書にはどんな種類がある?
遺言書には、いくつかの種類があります。一般的なものとして、以下の2種類を紹介します。
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
「①自筆証書遺言」は、自分で手書きして作成する、一番簡単に作成できる遺言書です。
遺言者自身が、遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印して作成します。
最低限、紙と筆記具があれば作成できますので、作成費用がかかりません。
ただし、相続が発生した際には、家庭裁判所での「検認手続」が必要となります。
なお、法で定められた要件を満たしていないと無効となる恐れがあることと、紛失や偽造の恐れがあることは注意点です。
ちなみに、2020年7月から「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。法務局で自筆証書遺言が保管され、遺言書の形式的な確認がされ、家庭裁判所での検認が不要となるため、自筆証書遺言を作成する場合は、こちらの制度を利用されることもおすすめします。数千円程度の費用で利用でき、非常に便利です。
「②公正証書遺言」は、公証役場で、公証人に作成してもらい、公証役場で保管される遺言書です。
こちらは専門家である公証人によって作成されることや、保管の安全性などの点から、最も確実で安心な遺言書となります。無効となるリスクを避けることができ、家庭裁判所の検認も必要ありません。
費用は数万円程度かかり、遺言の目的である財産の価額によって変動しますが、安心度は一番です。
自筆証書遺言と異なり、全文の自書が必要ないことや、2025年10月からはオンラインで作成することも可能になったため、体力的な心配のある方にとっても、大変有用な手段といえます。
遺言書を作成するにはどうすればいい?
遺言書を作成される際には、遺言書作成サポートを行っている、士業などの専門家にご相談されることをおすすめします。
ご自身で遺言書を作成したものの、不備があって無効になってしまったり、内容が遺留分に配慮されておらず相続争いの原因となってしまう場合もあります。(遺留分とは、一定の法定相続人にある、最低限の遺産の取り分のことです。)
遺言書の不備をなくし、しっかりとした相続人関係図や財産目録を準備するなど、安心・確実な遺言書作成をサポートができる専門家へ、ぜひご相談ください。